
- はじめに:体系的なリスク評価から始める
- 安全の土台作り:オフィスレイアウト4つの基本原則
- 行動計画の起点:オフィス地震リスク自己点検チェックリスト
- 問題解決型アプローチ:ワークスペースの具体的な固定方法
はじめに:体系的なリスク評価から始める
地震大国である日本において、オフィス内の物理的な安全対策は、あらゆる防災活動の出発点です。しかし、やみくもに防災グッズを買い揃えるだけでは、効果的な対策は実現できません。重要なのは、まず自社の現状リスクを正確に把握し、体系的なアプローチで対策を講じることです。
本記事では、オフィスレイアウトの基本原則から、具体的な危険箇所に対する効果的な固定方法まで、オフィスを従業員にとって安全な「要塞」に変えるための実践的な手法を解説します
安全の土台作り:オフィスレイアウト4つの基本原則
効果的な地震対策は、現状のリスクを可視化することから始まります。家具の配置や物の置き方一つで、災害時の被害は劇的に変わります。東京消防庁などの公的機関が示すガイドラインに基づき、以下の4つの原則を徹底することが、安全なオフィス環境の基礎となります。
- 避難経路の確保:
メインとなる避難経路は直線的に確保し、その幅は最低でも1.2メートル以上を維持します。出入口や通路周辺には、転倒・移動の可能性がある背の高い家具や物を絶対に置かないことが鉄則です。 - 家具の戦略的配置:
デスク周りや会議スペースなど、人が長時間滞在する場所には、背の高い家具(書庫やロッカーなど)を配置しないようにします。また、家具を間仕切り代わりに使うことは、倒壊のリスクを著しく高めるため、絶対に避けるべきです。 - 重心の安定化:
書類棚やロッカーでは、重い収納物を下段に、軽いものを上段に置くことを徹底します。この単純なルールが家具の重心を下げ、転倒のリスクを大幅に軽減できます。 - 落下物の防止:
書庫や棚の上には、原則として物を置かないようにします。壁に設置された時計や額縁、掲示板なども、万一の落下に備えてフックなどでしっかりと固定する必要があります。オープン棚の収納物が滑り落ちるのを防ぐためには、ベルトで簡単に取り付けられる 落下ストッパー の設置が有効です。
行動計画の起点:オフィス地震リスク自己点検チェックリスト
上記の原則を踏まえ、自社の状況を客観的に評価するために、以下のチェックリストをご活用ください。このリストは、受動的な知識を能動的なリスク発見へと転換させ、具体的な対策の必要性を明確にするための強力なツールです。
このチェックリストで「いいえ」と答えた項目が、貴社が優先的に取り組むべき課題となります。
チェック項目 | 現状 | リスクレベル (高/中/低) |
推奨される対策・関連製品 |
---|---|---|---|
高さ1.2m以上の書庫や棚は壁に固定されていますか? |
高 |
L字金具等での壁面固定。賃貸の場合は キャビネットホルダー や突っ張り棒を検討。 |
|
キャスター付きの移動棚やワゴンはロックされていますか? |
中 |
日常的にロックを徹底。移動させないものは キャスターフレームホルダー で床に固定。 |
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避難経路の幅は1.2m以上確保されていますか? |
高 |
経路上の障害物を撤去し、レイアウトを見直す。 |
|
デスクや棚の上のPC、複合機は固定されていますか? |
中 | ||
ガラス扉のある書庫や窓に飛散防止フィルムは貼られていますか? |
高 |
「ガラス飛散防止フィルム」を施工する。 |
|
書庫や棚の収納物は、重いものが下段に配置されていますか? |
中 |
収納物の配置を見直し、重心を下げる。 |
|
書庫の扉や引き出しに、飛び出し防止のラッチ機能はありますか? |
中 |
ラッチ付きの家具を選定。既存の家具には後付けのロックや 落下ストッパー を取り付ける。 |
このチェックリストは、貴社専用の「防災コンサルテーション」の第一歩です。
リスクを特定することで、次のステップである具体的な製品選定が、より的確で効果的なものになります。
問題解決型アプローチ:ワークスペースの具体的な固定方法
自己点検で明らかになったリスクに対し、具体的な解決策を講じます。ここでは、単なる製品紹介ではなく、「特定の問題」と「その最適な解決策」をセットで提示します。
問題1:書庫やスチール棚の転倒
- 危険性
- 大地震の際には、重量のある書庫が凶器と化します。転倒すれば避難経路を塞ぎ、直接的な圧迫による負傷や、収納物の飛散による二次災害を引き起こします。
解決策
最も効果的な対策は、L字金具などで壁に直接固定することです。しかし、賃貸オフィスなどで壁に穴を開けられないケースも少なくありません。
キャスター付き家具向け
キャスターフレームホルダー は、キャスター付きのオープン棚やワゴンのフレームに取り付け、付属の強力な粘着パッドで床や壁に固定します。穴あけが不要なため、原状回復が求められるオフィスに最適です。キャスターの自由な動きを封じ、家具全体の安定性を高めます。
各種OA機器・重量家具向け
耐震ストッパーロング は、複写機やサーバーラックなど、比較的重量のあるOA機器の脚部に取り付けて固定します。硬貨一つで簡単に固定・解除ができるため、メンテナンス時の移動も容易です。耐震度7相当の性能で、大きな揺れによる転倒や移動を防ぎます。
その他、壁への穴あけが不要な キャビネットホルダーLハイブリッド なども、状況に応じて組み合わせることで、より安全性を高めることができます。
問題2:OA機器や小物類の滑動・落下
- 危険性
- デスクトップPCやモニター、プリンターなどがデスクから滑り落ちると、機器の破損による業務停止はもちろん、落下物が足元に散乱し、避難時のつまずきや転倒の原因となります。
解決策
透明両面粘着ゴム
は、PCや電話機、その他卓上の備品などの底面に貼り付けるだけで、滑動や落下を効果的に防ぎます。
無色透明な素材のため、オフィスの美観を損なわない点が大きな利点です。
また、粘着力は強力でありながら、剥がす際には糊跡が残りにくく、繰り返し使用可能な製品も多いため、レイアウト変更にも柔軟に対応できます。設置前には、接着面のホコリや油分をきれいに拭き取ることが、効果を最大化するポイントです。
問題3:ガラス面の飛散
- 危険性
- 窓ガラスやガラス扉付きの書庫は、地震の揺れによって割れ、鋭利な破片が広範囲に飛散する危険があります。これは避難時の深刻な怪我の原因となるだけでなく、復旧作業の大きな妨げにもなります。
解決策
ガラス飛散防止フィルムの施工は、防災対策の基本中の基本です。専門業者による施工が推奨されますが、透明なフィルムをガラス面に貼り付けることで、万が一ガラスが割れても破片が飛び散るのを防ぎます。
この一つの対策が、オフィス内の安全性を劇的に向上させます。
これらの対策を体系的に実施することで、オフィスは単なる「物の置き場所」から、従業員の安全を守る「要塞」へと変わります。次回は、近年増加する水害リスクに対する「浸水対策」について解説します。