
はじめに:増加する都市型水害のリスク
近年、ゲリラ豪雨や大型台風による都市型水害のリスクは、地震と並ぶほどの重大な経営リスクとなっています。
事業継続の観点から、浸水対策はもはや無視できない課題です。しかし、水害対策は、ただ被害を受け入れる「受け身」の姿勢であってはなりません。
「水を入れない(第1層防御)」と「入った水を制御する(第2層防御)」という、能動的な二層の防御戦略を立てることが極めて重要です。
本記事では、この二層防御の考え方に基づき、企業の資産と従業員を水害から守るための具体的な戦略を解説します。
第0ステップ:敵を知る「ハザードマップ」の戦略的活用
あらゆる水害対策の出発点は、自社が拠点を置く場所の地理的リスクを正確に理解することです。そのための最も重要な情報源が、各自治体が公開している「ハザードマップ」です。
ハザードマップを確認することで、対策は「何となく」から「具体的」なものに変わります。
主に確認すべきは以下の2種類です。
- 洪水ハザードマップ
- 河川が氾濫した場合(外水氾濫)に、どの範囲がどのくらいの深さまで浸水する可能性があるかを示します。
- 内水ハザードマップ
- 短時間の大雨により、下水道などの排水能力を超えた場合に発生する浸水(内水氾濫)の想定区域を示します。
これらのマップで、自社のビルが「最大浸水深50cm」といった具体的なリスクに晒されていることを把握することが、効果的な対策を立案するための絶対的な第一歩となります。
第1層防御:外部からの水の侵入を物理的に防ぐ
浸水対策の基本は、建物内に水を入れないことです。
特に、ビルのエントランスや搬入口、地下への入口など、水の侵入経路となりうる開口部を物理的に塞ぐことが求められます。
従来、この役割は「土のう」が担ってきました。しかし、土のうには「非常に重い」「保管場所に困る」「緊急時に迅速に設置するのが困難」といった、運用上の大きな課題がありました。
災害対応はスピードが命であり、これらの課題は致命的になりかねません。
解決策:現代の「石垣」、軽量止水板と吸水性土のう
こうした課題を解決するために開発されたのが、 備えあれ板(止水板) です。1枚あたりが非常に軽く、女性でも容易に運搬・設置が可能なため、緊急時に誰でも迅速に対応できます。ジョイント式で工具を使わずに連結でき、地面に置くだけで水の侵入を防ぐ壁を素早く構築できます。
また、従来の土のうの課題を解決する、水に浸すだけで約3分で膨らむ 水で膨らむ土No袋 も、緊急時に迅速な対応を可能にする選択肢です。
完全性を高める工夫:弱点をなくす
止水板を設置する際に見落としがちなのが、壁際や板同士の接続部分、特にコーナー部分の隙間です。
水はわずかな隙間からでも侵入するため、完全な止水を目指すには、こうした細部の密閉が不可欠です。
備えあれ板用コーナーパーツ
は、止水板の角部分にぴったりとフィットし、弱点となりがちなコーナーからの漏水を防ぎます。このパーツを併用することで、止水性能は格段に向上し、より確実な外部防御が実現します。
第2層防御:内部での被害拡大を制御する

万全な外部防御を施しても、想定を超える水位や、壁面からの浸透などにより、建物内への水の侵入を100%防ぐことは困難な場合があります。そのため、少量の水が侵入することを前提とした「第2層防御」の準備が、企業のレジリエンス(回復力)を決定づけます。
問題:内部への漏水と床面の浸水
- 危険性
- 内部に侵入した水は、床を濡らし滑りやすくすることで転倒事故を誘発します。また、電気設備や重要書類、精密機器などに到達すれば、漏電による火災やデータの損失、高価な設備の故障といった甚大な被害につながります。
解決策1(被害拡大の防止)
ピグアンチミルデューソックス(吸水ソックス) は、水漏れが発生している箇所や、水が溜まっている床面に置くことで、自重の何倍もの水分を素早く吸収します。水を吸収・保持することで、被害の拡大を防ぎ、床面の滑りをなくして安全な通路を確保するのに役立ちます。水が侵入しそうなドアの下や、重要設備の周囲に予め配置しておくことで、被害を最小限に食い止めることができます。
天井からの急な水漏れなど、局所的な漏水には、応急処置として ポタポタキャッチ を設置することも有効です。
解決策2(重要資産の個別保護)
BCPの観点から、事業継続に不可欠な重要資産を個別に保護することも極めて重要です。
特に、オープン出納機のような精密な電子機器は、天井からの漏水や飛沫など、わずかな水滴でも致命的な故障の原因となります。
オープン出納機向け防滴カバー
は、機器全体をすっぽりと覆うことで、こうした水濡れから機器を保護します。
簡単に着脱できるため、平常時は近くに保管しておき、浸水の危険が迫った際に素早く被せることで、 事業の根幹を支える重要資産を守ることができます。
この二層防御戦略に基づき、外部からの侵入防止と内部での被害制御の両面から対策を講じることで、企業は水害に対する対応力を飛躍的に高めることが可能です。
次回は、従業員の生命線を守るための「備蓄」について、完全ガイドをお届けします。