
アルモットくんの!「5秒」で分かるコラムの要約
病院でクレジットカードが使えないのは、医療費が公定価格だから!お店なら手数料を価格に織り込めるけど、保険診療の価格は国が決めていて動かせないんだ。だから手数料はまるごと医療機関の負担になる。病院の規模によって導入率に差があるのはこのためだよ。大きな病院ほど使えることが多いよ!
コンビニでもタクシーでも当たり前にカードが使えるのに、病院の会計では「現金のみです」と言われる。高額な治療費を請求されて、慌ててATMを探しに走った経験のある方もいるのではないでしょうか。
これは病院が時代に遅れているからではありません。医療費という商品には、小売業とは決定的に違う価格の仕組みがあり、それがキャッシュレス導入の障壁になっています。
今回は、病院の窓口でクレジットカードが使えないことがある理由を価格の構造から読み解き、導入している医療機関が裏側で何を運用しているのかまでご説明します。
- 大きな病院ほど使える、という傾向
- 価格を動かせない、という決定的な違い
- ただし、手数料の計算には誤解がある
- 価格以外にある3つのハードル
- 患者としての備え方
- カード決済を導入したあとに必要になるもの
- まとめ
大きな病院ほど使える、という傾向
実感として「大学病院では使えたのに、近所のクリニックでは現金だけだった」という経験をお持ちの方は多いと思います。この傾向はデータにも表れています。
厚生労働省が令和5年3月に公表した「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書」では、病院を対象にクレジットカード(デビットカードを含む)決済の導入状況が調査されており、全体では導入しているとの回答が60.9%、導入していないが39.1%という結果でした。医療機関の種別で見ると、救急医療機関や拠点的な医療機関では導入割合がさらに高くなっています。
この調査は外国人患者の受け入れ体制を調べたものなので、日本の医療機関全体の平均をそのまま示すものではありません。ただ、規模や機能によって導入状況に明確な差があるという傾向は読み取れます。では、その差はどこから生まれるのでしょうか。
価格を動かせない、という決定的な違い
ここが本質です。
小売店や飲食店がキャッシュレス決済を導入するとき、決済手数料は経費として商品価格に織り込むことができます。手数料が3%かかるなら、その分を価格設定に反映させればよい。判断は事業者の自由です。
ところが保険診療の価格は、診療報酬として国が定めています。同じ処置なら、北海道でも沖縄でも、大学病院でも町のクリニックでも点数は同じです。医療機関には価格決定権がありません。
公定価格であることの帰結
価格を上げられない以上、決済手数料はそのまま医療機関の利益から引かれます。小売業が「手数料を払ってでも客単価と来店頻度を上げる」という投資判断ができるのに対し、保険診療では患者が増えても単価は動かず、手数料だけが積み上がる構造になります。導入判断の前提がそもそも違うのです。
加えて、医療機関には「値引き」も「ポイント還元」もありません。集客のためのキャッシュレス、という発想が成り立たない領域なのです。
ただし、手数料の計算には誤解がある
一方で、医療機関側にもよくある誤解があります。「医療費は高額だから、手数料が莫大になる」という思い込みです。
実際には、保険診療で患者がカードで支払うのは自己負担分だけです。3割負担であれば、窓口で決済されるのは医療費総額の3割。手数料はその3割に対してかかります。つまり医療費総額に対する実質的な手数料率は、表示されている料率よりかなり小さくなります。
また、日本医師会の関連機関や決済事業者が医療業種向けの特別料率を設定しているケースもあり、一般的な小売向けの料率より低く抑えられる場合があります。料率も条件も事業者ごとに異なるため、比較検討の余地は小さくありません。
逆に注意が必要なのは自費診療です。こちらは全額が決済対象になるため、手数料の絶対額は大きくなります。保険外の診療を多く扱う医療機関ほど、この影響を受けます。
価格以外にある3つのハードル
手数料だけが理由ではありません。運用面にも独特の事情があります。
- ① 利用率が読めない
高齢の患者が多い医療機関では、カードを持っていない、使い慣れていないという理由で利用率が伸びないことがあります。端末を置いても使われなければ、固定費だけが残ります。 - ② 取消処理が煩雑になる
保険証を後日提示して差額を精算する、レセプトの修正で金額が変わるといったケースでは、カードの売上を遡って取り消し、再度決済し直す必要が生じます。現金なら窓口で完結する処理が、複数の手続きに分かれます。 - ③ 会計時間が延びる可能性がある
決済手段を増やすほど、窓口での確認事項が増えます。待ち時間を減らすために導入したのに、かえって列が伸びたのでは本末転倒です。
③への答えが、自動精算機です。支払い方法の選択から決済、控えの発行までを機械が一連で処理すれば、手段が増えても窓口の処理時間は増えません。キャッシュレス対応と待ち時間短縮を両立させるには、窓口の運用ではなく機械側で吸収するのが現実的ということになります。
患者としての備え方
受診する側としては、次の点を押さえておくと慌てずに済みます。
| 場面 | 確認しておくこと |
|---|---|
| 初めて行く医療機関 | 公式サイトの「ご案内」ページに支払い方法の記載があることが多い。電話で聞くのが最も確実 |
| 高額になりそうな受診 | 検査や処置が入る日は金額が読みにくい。現金を多めに用意しておく |
| 入院・手術 | 金額が大きいため、カード対応の有無と利用限度額を事前に確認する |
| 使えた場合 | カード決済の控えと、領収書・明細書は別の紙。すべて受け取って保管する |
最後の点は見落とされがちです。医療費控除の申告では領収書が必要になりますが、カード決済の控えは領収書の代わりにはなりません。両方を受け取って、領収書のほうを保管してください。
カード決済を導入したあとに必要になるもの
キャッシュレス化を進めると、実は紙の消費は減りません。むしろ増えます。
決済のたびにカード控えを発行する必要があり、それは領収書や明細書とは別の紙です。加えて、自動精算機はすべての取引をジャーナルとして記録し続けています。キャッシュレス化とは「現金を扱わなくなること」であって、「記録を残さなくなること」ではありません。
ここで印字がかすれたり紙詰まりが起きたりすると、控えの発行に失敗し、患者様とのトラブルの原因になります。決済の信頼は、確実な控え発行から始まります。
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まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 根本の理由 | 保険診療は公定価格。決済手数料を価格に転嫁できず、医療機関の負担になる |
| よくある誤解 | 手数料がかかるのは自己負担分のみ。医療費総額に対する実質率は表示料率より小さい |
| 運用上の壁 | 利用率が読めない/取消処理が煩雑/会計時間が延びる懸念 |
| 規模による差 | 救急医療機関や拠点的な医療機関では導入割合が高い傾向 |
| 導入後に増えるもの | カード控えの発行。キャッシュレス化しても記録の紙は減らない |
「現金のみ」の張り紙の裏側には、価格を自分で決められないという構造上の制約があります。それでも導入を進める医療機関が増えているのは、患者の利便性と、現金を扱うこと自体のコストを天秤にかけた結果です。そして導入した先で必要になるのが、控えを確実に発行し続けるという、地味で止められない仕事なのです。
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